雨杜が白柳邸に来た時の話
「本当に私がこちらに住んでしまってよろしいのでしょうか?」
あの時は感激のあまり思わずあのように振る舞ってしまったが、よくよく考えずともかなり図々しいのではないかと石動雨杜は改めて思い直したのだ。
「よろしくなかったら言わない」
どうやらそう尋ねられるのを予期していたらしく、吏壱は特に何て事も無さげに言い、「ついでにお前に拒否権もない」
神代家と白柳家に己の生存を黙ってた罰だと苦笑しながら答える吏壱に、
「それではお言葉に甘えて・・・それに部屋まで与えて下さってありがとうございます」
と雨杜は俯きながらも嬉しそうに微笑んでいた。
そんな雨杜の様子を見ながら、ふと吏壱は疑問に思った事を尋ねてみた。
「ちなみに家はどうするつもりだった?」
「吏壱様のお住まいの近くにあるアパートを借りようかと」
「住まいの近くって・・・かなり離れてるだろ」
白柳も神代に比べれば規模は小さいが、立派な屋敷に近い。そんな付近にアパートだのマンションの類は無いのは当然だ。
「それでも県が同じですから」
「県って・・・お前今まで何処にいたんだ?」
「京都です」
関東と関西かー、じゃあ確かに大分近くになったなーって。
「そうじゃないだろ」
「え?」
「いや何でもない」
思わず脳裏によぎった言葉に一人ツッコミをしてしまったのを、雨杜が不思議そうな眼で見ていた。
雨杜なら片道三十分くらいかかるところからでも普通に白柳家に通ってくるのは確実で、こいつがアパートを確保する前に会えてよかったと吏壱は心底思った。
「とにかく、部屋も余ってるし、遠慮する事は無い。いいな?」
今更やっぱアパート借りますは断固拒否だからな、と再度念を押すように吏壱が言えば、
「はい。・・・やっぱり吏壱様はお優しいですね」
とそれはもう嬉しそうに雨杜は言ったのだった。
そして白柳の一族と仕えている者たちとの話し合いの結果、吏壱の私室に一番近いところに一部屋空いていたのでそこを雨杜の部屋にする事に決めた。
たった一日でも雨杜の白柳・・・というよりも吏壱に対する忠誠心は本物で疑う余地もない。そんな彼が吏壱の傍にいてくれれば、滅多にないが妖や魔の奇襲があっても安心だと満場一致したのだ。
白柳の家は立派な和を思わせる見事な屋敷だが、床は神代家と違い意外にも殆どがフローリングだった。
吏壱がまだ幼い頃はまだ畳だったのだが、掃除の際に家政婦の者が大変だとこっそり呟いた言葉をたまたま祖父である順昇が聞いて、
「確かに畳は面倒だよなぁ、猫がいるとすぐぼろぼろになるし」
「猫の方が大事ですしね、いっそフローリングとやらにしちゃいます?」
たまたま傍にいた祖母がそう提案し、
「そうだな、ご先祖様にはすまんがフローリングにしちゃうか」
とあっさりと即決し、吏壱の父母も赴きある外観は損なわれないしまあいいかと咎める事無く、フローリングに替えてしまったのだ。
そのような経緯があった為、もちろん雨杜が使う部屋も床は畳ではなくフローリングだ。
部屋は今まで未使用とはいえ、しっかりと掃除がしてある為埃ない綺麗な部屋だった。
吏壱が先に入り、それに続いて雨杜と三人ほど仕えている者たちが入る。
「家具一式は後で揃えるとして……」
きょろきょろと部屋を見渡しながら、
「雨杜はベッドと布団どっち派だ?」
吏壱は雨杜に尋ねた。
雨杜は目を瞬かせながら、
「あ、布団です……って自分で買いますからお気になさらず……」
と答えていたが、吏壱にそんな気を遣わせる訳にはいかないと慌ててそう言った。
「色調は…緑が好きなんだよな?じゃあ緑系でまとめるとして」
「いや、だからあの、自分で揃えますから」
「今日は遅いからとりあえず客用の布団を出そう。明日買いに行こう」
しかし、雨杜のそんな言葉を軽く流しながら、吏壱はこれからこの部屋のインテリアをどうしようかと些か楽しそうに考えている。
そんな吏壱に雨杜は困り、お付きの人たちに何とか言ってもらおうと視線をやれば、
「確かあの店はいいのがありましたよ当主」
「だったら最近出来たところも……」
と雨杜の視線に気づいている筈なのに完全に吏壱の味方である。
「まあ全部回ればいいだろ、雨杜は何が必要かまとめておけ」
ちなみに金は何と言おうとこっちが出すからな、と念を押される。
そうして決めるだけ決めると、とりあえず布団を持ってこようと一同雨杜を置いてさっさと取りに行ってしまったのだった。
「誰も私の話を聞いてくれない」
お金ならちゃんと持っているのに、そんなに文なしに見えるのだろうかと若干ずれた思いを抱きつつ、雨杜は皆の後を追ったのだった。
END
雨杜はバイトもしていたし無駄遣いはしない子なので貯金は結構あると思われ・・・
私も見習いたいぜ・・・
吏壱が当初はもうちょいツンケンな設定の筈だったのですが、大分デレてますな。
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