死んだらもう、守れないから
「お前・・・」
「ユーリだユーリ、いい加減覚えろ。ついでに今俺の隣にいる奴の名前は分かるか?」
「緑羽様にヘーメラーだろう。あとレノ」
「・・・本当に興味の無い奴の名前を覚えないな」
「興味持たれないだけマシじゃない?ほら、何だっけ、クロードなんか会った瞬間銃口向けられてたじゃない」
てかあたしもついでみたいな感じで覚えられてるし、とがっくしと肩を落とすユーリにファレノプシスはフォローする。
「まああれはクロードが悪いし仕方ないとは思うけれど」
緑羽が頷き、
「でも、ユーリの名前は覚えて欲しいな」
と神妙な面持ちで告げる。
緑羽、お前って奴は!と感激しているユーリはとりあえずほっといて、シランはヘーメラーの方へと行く。
「元気だったか?」
「あ、はい。シラン様もお加減がよろしいようで良かったです」
「相変わらず他人行儀だな、せめてもうちょっと砕けてもいいんじゃないか?ユーリに対する態度とまでは行かないが」
「おい、俺の名前覚えてんじゃねーか」
「え、でも・・・。シラン様にそんな失礼な態度、取れません」
「ユーリだったらいいのか」
「シランはともかくヘーメラー、それは流石に心に来るんだが」
「まあまあ、僕も名前忘れられてるみたいだしさ」
ユーリはものすごく嫌ぁな顔になり、緑羽は思わず噴き出していた。慰めの言葉をかけたのはユーリの肩にいたライオスだ。
ユーリにとってヘーメラーは憎まれ口をたたく可愛い妹のような存在になっている為か、先程の言葉は何気に結構ショックだったらしい。
緑羽は緑羽であれはシランとヘーメラーなりのスキンシップの仕方なのだろうと分かっている為、面白がるだけで何も咎めない。・・・恐らく、緑羽が咎めれば二人とも速攻態度を改めるだろうが、多分それはユーリも望んでないだろう。
しばらく口を出さずに見守っていると、ユーリ、ヘーメラー、シラン、ライオスの四人でわいわいと騒ぎ始めた。
聞き耳を立てればやれ兄上はどうのとか、シラン様もご一緒にどうですかとか、それは構わんが宿はどうする宿はとか、ここって名産何かなぁとか、そんな言葉が聞こえてくる。
「楽しそうね」
「ああ・・・。レノは混ざらないのか?」
「そういう緑羽は?」
にこりと綺麗な微笑を見せながら、ファレノプシスは問う。
「私が入るとユーリ達はともかく、ヘーメラーが私を気遣うから」
「あー・・・成程ね、厄介よね、あの従者体質・・・」
「家族と同じように接して欲しいと何度頼んでもあれだからなぁ」
言葉こそ嘆きを含んでいるが、表情は嬉しそうにしている。
「ヘーメラーらしいわね」
ああ、と緑羽は頷く。と、ふとそこで思い出したように、
「再三しつこくてすまないけれど、いいのか?」
混ざらなくて、と緑羽が尋ねると、
「あたしが混ざると多分収拾つかなくなるわよ」
にこりと首を横に振り、
「それに緑羽が一人になっちゃうし」
と言われ、緑羽は苦笑した。
「お気遣いありがとう」
その様子をファレノプシスはじっと見た後、
「・・・緑羽ってさ、傍から見てると危ない戦い方してるような感じだけど、実際は違うわよね」
「ん?」
ファレノプシスの言葉に緑羽は首を傾げた。
「何ていったらいいのかしら、確実に勝てる戦いの仕方を分かってるっていうか・・・」
言われて緑羽は以前、自分自身が言った「勝算のない戦いを私がすると思ったのか」という台詞を思い出した。魔物王の長子であり次期魔物王候補としてあがっている身、命を狙われたりすることは日常茶飯事だった。
元々能力は父を遥かに上回っているし、毒等の耐性も付けている為、命の危機に瀕した事は殆ど無い。
強いて言うならクロードがやって来た時だけは危機感を覚えたのかもしれないが。
「・・・死ぬ訳にはいかないからな」
ぽつりと呟いた言葉に、ファレノプシスは目を丸くして、
「へぇ~!てっきり貴女の事だから命を捨てても民を護る、とかそういう主義なのかと思った」
と頻りに感心する。
まあ、普段の言動行動はそう彷彿させるのかもしれないなぁと緑羽は納得しつつも、
「でも、死んだらお終いだ。護るものも護れないし」
と言い訳っぽく言えば、何故かファレノプシスは嬉しそうににこにこしている。
「うんうん、それでいいのよ」
もし自分の命を犠牲にしてまで誰かを、とか言ったら引っ叩こうかと思ってたのよ、とやや物騒な事を美しい笑みで告げる。
「・・・成程、私は正しい選択を選べたみたいだ・・」
ファレノプシスは然程戦いに長けている訳ではないが、以前彼女に仕えているセイレーンの片割れを引っ叩いたところを見た事がある。それはもう見事に決まっていて、相手が悪かったのは明らかだったがあれは同情せざるを得ない威力だったのだ。
正直言って喰らいたいとは全く思わない。
「あたしもね、知ってるでしょ、子供の頃の話」
「ああ、うん、聞いた」
「もうホント死んだ方がマシってくらい辛くて惨めな事もあったけど、それでも死んじゃったら妹護れないし、踏ん張ったのよ」
そうしたら彼女の歌の才に気付いた男性が彼女を歌姫になるまで援助してくれて、おまけにその歌声に惹かれたセイレーンが仕えるようになったから人魔調和委員会にも入れる事になり、生活はかなり安定した。
「色々あるけど、今の生活、大事なのよね」
「・・・私もだ」
ファレノプシスの言葉に同意して頷く緑羽。
その後は他愛も無い事を話しつつ、たまたま通りかかったアイス売りからアイスを買って、頬張っていた。
「・・・てか、あいつら未だに話終わらないみたいだし、あたし達だけで泊るとこ探さない?」
「そうだなぁ・・まあよく尽きないな、割と頻繁に会ってるのに」
やれやれと彼らを見ながら、緑羽はファレノプシスとの会話を思い出す。
「死んだら護れない・・・」
「え?」
「何でも無いよ、さ、二人で探しに行こうか」
「そうね!」
END
緑羽の台詞とユーリの「おい、俺の名前覚えてんじゃねーか」を言わせたいがための小話。
創作にしろ版権にしろ、みんなでワイワイギャーギャー騒いでるところを書くのはすごく楽しいです。
あと同性同士が(邪な目線一切無しで)仲良くしてるのは好きだ。
しかしクロードが名前だけだっていうのに酷い言われよう・・・
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