「また振ったの」
「あー・・・見てたのか」
ファレノプシスが話し掛けるとユーリは困ったように頬を掻く。
先程までユーリは同じ職場である人魔調和委員会の、新入りの女の子に告白されていたのだ。結果は冒頭のセリフの通り、一蹴したようだが。
「泣いてたけど」
「ああ、馬鹿正直に本当の事をうっかりと」
「そりゃ泣くわ」
言って溜息をつき、振られた女の子を心底可哀そうだと思った。
ユーリ=シェバリーンという男は心底変わった人間の青年だ。いや、今では育ての親である魔物から影響を受け、魔物に近い存在へと成りつつあるが、見てくれだけ見れば完全な人間である。
やはり、というか人間と魔物のカップルというのはなかなかいない。共生こそできるものの、やはり異種族同士、恋愛に踏み込むには中々に難しい部分があるようだ。
だから人間は人間同士、という考えがこの世界では一般論となっている。故にシランはかなり珍しいケースといってもいいのかもしれない、例え暴君であった国王の妾の子だったとしても。
だがしかし、ユーリ=シェバリーンに限り、その一般論は通用しない。
何せ彼は緑羽たちと行動を共にするようになって一月も経たない内に宣言したのだから。
「俺は人間には全く恋愛的な興味を持てない自信がある」
「恋愛したり結婚するなら魔物ってもう決めてるし、どんなに美人で妖艶な人間に迫られても、正直性的興奮も沸く自信がない」
ある種の不感症かこれ、とぼやいていた彼に、その場にいた者たちが呆然と口を閉ざしてしまったのは言うまでもない。
「今まで女の子に告られて思った事は!?」
「あー、へー、そうなんだー興味ない、が殆ど。あとは美人だけどでもやっぱ人間って思うとどうもなーっていうのもちらほら」
「本当にただの一度も恋愛感情を抱いた事がないのか!?」
「悪いが全く以って無い」
「じゃあ人間の男は!?」
「人間って時点で却下」
「・・・・・・・魔物だったら?」
「・・・・ちょっと考えるかもしれない」
「考えちゃうのか」
その後の怒涛の質問責めにも、淡々と答えてしまう。
つまり、それくらいユーリの中では人間との素敵な恋愛は有り得ないという事なのである。
「ホントかわいそー」
ファレノプシスが非難めいた視線をやると、ユーリは苦笑する。
「まあ可哀想だとは思うが、好きでもない相手と付き合う方が余程最低じゃないか?」
「そりゃそうだけど、もうちょいオブラートに包んでやったら?」
「・・・確かに。ま、でも、逆にコイツサイテーって思って恋愛感情消えてくれるかもしれないし」
「あんたの評価下がるわよ」
「女の子を振ったらそのくらいのリスクはつくんじゃないか?」
ふ、と笑うユーリは確かに美形とまではいかないが、相当に良い男であるのは間違いない。人魔調和委員会でも上位の――真実をいうならばトップなのだが――地位にいて、見てくれも良くって剣術魔術の腕も確か、性格は至って冷静で行動力もあり、契約している魔物の数は数知れず、仕事の業績は他の追随を一切許さない。
そんな男を放っておく、という方のが難しいのかもしれない。
現にファレノプシスもユーリと此処まで仲良くなる前までは、ちょっといいわねーくらいには思ったのだ。まあ、彼女の場合はその前に既に他の存在に恋していたから恋愛感情に至る事は無かったのだが。
「ま、アンタには緑羽ちゃんがいるしねぇ?」
「ああ、そうか、今度から本命いるっていえばいいのか」
ファレノプシスがからかうように言えばユーリはぽんと手を叩く。
「てかうまくいってんの、そっち」
「全然。口説いても反応ないっていうか、十中八九、俺の事子供扱いしてるな」
「百二十歳以上の歳の差はキツイわよね」
「あー・・・・魔物に生まれたかった・・・」
そうすりゃ魔物と素敵な恋愛とやらがもっとスムーズにできる筈なんだけどなーと頭を抱えて嘆くユーリを、ファレノプシスはちょっと引き気味に眺める。
こんな姿を彼に憧れている女の子達に見せたらどんな反応をするのか、想像するに難くない。
_______
ホントはユーリに「緑羽ってホント今まで会った魔物の中じゃ一番好みなんだけどな」とか、「ヘーメラーも割と好みかも」とか言わせたかった。
あと男でも魔物ならいけるかも?って発言でクロードとシランの名前も挙げたかったけど、それやると変な方向に行くので止めました。
実際どうよって聞かれたら、多分というか九割方いけると思います、ユーリなら。飽くまで攻め入るほうでなら。
今回ユーリの話し相手になっているファレノプシスさんも、実はユーリより余程無謀な恋してるんですけどねー。
PR